女教師
なし
 「女教師」

 ―プロローグ―
 こんなにも人を好きになったのは初めてだった。何もかも捨てて、この人だけを見つめて生きていきたい。
 この禁断の愛に私はすべてを捧げる…。

 私は教師という仕事に憧れていた。大学を卒業してから、教職採用試験に二度チャレンジした。必死で勉強したせいか、わずか二度で私は遠く思えた未来を勝ち取ることができた。今の公務員試験は学力だけで判断することが本当に多くなった。人は頭の良さだけで判断されるのであろうか。頭が良ければ世の中うまく渡っていけるのだろうか。そんな簡単なものなら皆死ぬ気で頭をよくするだろう。きっと人間として大切なものも必要だろう、私はそう信じている。
 四月、私は公立のM高等学校に勤務することが決まった。ひたすら教師という仕事に夢を抱き続けてきた私にとってこの現実は誰かに飛びつきたくなるほど嬉しいことだった。そしてこの日が今までの人生の中で最も最良の日だった。
 「笹倉先生、笹倉舞先生!」
 職員室で新任の先生方の挨拶が終わりお茶を飲んで一息ついているところ、私の後ろから誰かが不意に呼んだ。振り向くと同僚の男性の先生が笑顔で立っていた。
 「俺、根岸千尋。これから宜しくね。歳は27歳で独身です。」
 根岸先生はそう照れながら挨拶した。
 「あ!私、笹倉です。あの新米なので何もわかりません。ご指導よろしくお願いします。」
 私は慌てて立ち上がり根岸先生に深々と礼をした。
 「いやいや、先生なら、指導がなくても大丈夫です。何だか知的そうだし…。」
 
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