女教師
こうして私の初勤務は幕を閉じた。今までの人生の中で一番長い一日だったような気がした。

ピアノの音色がどこからともなく聞こえてくる。授業中なのだと思ったが私は何気なくその音色につられ、音楽室をのぞいてみた。
するとなんとあの、兼山東がピアノをひいていたのだった。意外だった。彼が音楽に興味を持っているなんて…。しかしその音色は彼の気持ちを物語っているような気がして私は聞き入ってしまった。
悲しい音色…。聞いているだけで涙が出てきそうだった。彼は誰のことを思い、そしてどんな気持ちで毎日を送っているのだろう。本当に切なくなってくる…。
演奏が終わると私は音楽室に入った。
「兼山君て、ピアノ弾けるんだ。すごいね。先生、ちょっと驚いてるわ。」
そう私が笑顔を向けると彼はため息をつき
私から視線をはずした。
 「何だよ…。また殴りにきたわけ?」
 少しの間、沈黙が続く。
 「あ…。昨日のことは誤るわ。…ねえ、聞かせてくれない?何か悩み事があるんでしょう?藤井先生にも言えないことなの?」
 「うるせえな、おせっかい先生。さっさと授業いけよ。」
 彼は更に深いため息をつき、ピアノを両手でバァーンと荒々しく叩き、私をびびらせようとした。私はひるむことなく、更に質問を続けた。
 「ねえ、あなた私の質問に『セックスって何?』って書いたでしょ。私、それを見て最初はふざけて書いたんだなって思ってたけどあなたと接しているうちに真面目に書いたんだなって思えてきたの。でもね、先生もセックスってなぜするのかわからないわ。一つだけ言えるとしたら愛し合いたい、もっと深く相手と気持ちを通じ合いたいって思えたら自然な行為なんじゃないかと思うの。」
< 10 / 74 >

この作品をシェア

pagetop