女教師
「…なんだ、先生も結構好きなんじゃん。」 
 彼が呟いた瞬間、私はやっと我に返り、今の事態を把握した。そして彼を勢いよく両手で押しのけた。
 「ばかにしないでよ!あなたの、…一瞬でも力になろうとした私がばかだった。そうやっていつまでも心閉じてなさい!」
 そう叫ぶと私は勢いよくドアを開け音楽室をあとにした。
 隣の音楽準備室で根岸千尋は私達の行動を一部始終除いていたのを私たちは全く知るよしもなかった。そして、これがあの事件の真相への始まりとなっていくのである。
 
 オペラ調の音楽が流れている自宅の部屋で根岸千尋は物思いにふけっていた。
 兼山め、私の笹倉先生になんてことしやがるんだ。絶対許さん。笹倉先生の唇を奪った代償は高くつくぞ!」そう呟き、爪を噛んだ。

 「ねえ、東。今日はどこにも行かないよね。バンドの練習、今日無いもんね。」
 アパートの一室で樹里がベッドに座り、背中越しに東に話しかける。
 「ああ」
 「ライブやんないの?」
 「ああ」
 「どうして!?前は月2回もやってたのに」
「…ああ」
 「東!ちゃんと聞いてるの!?」
 心ここにあらずといった口調で東は答える。
 「なあ、樹里・・」
 「何!?」
 はじめて違うせりふが返ってっきたので樹里は期待顔になる。
 「ちょっと静かにしてくれない?」
 期待外の言葉だったので樹里はやりきれない思いで口調を強めに言う。
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