女教師
「どうしたの?東。やっぱり親が原因なの!?親が死んじゃった直後はバンドが俺の生きがいだって言って、輝いてたじゃない。ここ最近、どうしちゃったっていうの?わか
らないよ、東の気持ち教えてよ!」
 「黙れって言ってるのが聞こえないのか。親のことは二度と俺の前で出すな。そして
ここは俺の家だ。お前にも勝手に入られんの迷惑なんだよ。いいかげん、もう来るな。」
 そう樹里に向かって叫ぶと、東は立ち上がり、家をあとにした。
 「東!!どこ行くの!?」
 
 「はい、じゃあ一〇ページを開いて。」
 「先生~、授業するの!?」
 「当たり前でしょ、早く教科書開きなさい。」
 「先生のスリーサイズ教えてくれたら開く~。」
 少しずつ生徒も私に慣れ、私も生徒に慣れてきた。
 音楽室の事件から1ヶ月近く経った。私は彼のことを気にしながらも声をかけることができずにいた。あんなことになって、私は少し臆病になっていたのかもしれない。だがあのピアノの悲しい音色だけは耳の中にずっと残っていた。そしていつしか気づけば彼のことがずっと頭にあるのだった。
 「藤井先生、あの、兼山東のことなんですが少々お尋ねしたいことが…」
 授業が終了し、私は担任の藤井先生に彼のことを相談しようと思ったのである。
 藤井先生は露骨に嫌な顔をした。
 「なんだね、まだあの問題児のことを気にしているのかね。もうしばらく放っておきなさい。」
 担任なのにそんな言い方をすることはないのではと思ったが相手はベテラン教師だ。私は心の奥でそう解し、話を続けた。
 「兼山て、ご両親はいらっしゃるんですよね?」
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