女教師
「お前に…お前に俺の何がわかる!眼の前で親父が、おふくろが血まみれになって死んでたんだぞ!…もう二度と親の話なんか持ち出すな!帰れ!」
 そう私に向かって叫ぶと彼は頭を抱えた。その時だった。後ろから足音が聞こえて振り返ると彼の幼馴染という中野樹里が立っていた。
 「ちょっと、何してるの?東?」
 樹里はものすごい目で私をにらみつけるとすぐさま心配そうな顔つきで彼の方を掴んだ。
 「もう、東に構わないで!もう私たちのことは放っておいて!あなたのせいで東がどんなに傷ついたかわかってるの!?早く出て行って!」
 私はしばらく彼を見つめていた。深い、そうとう深い傷を背負っている。彼の表情はうつろで目には何も映らない、いや何も映したくないというようなそんな目をしていた。

 「笹倉先生、どうしたんですか。暗い顔して…。」
 振り向くと根岸先生がいつものニコニコ顔で立っていた。
 「ええ、ちょっと…。」
 「どうしたんですか、顔が少し青い。体調悪いんですか?」
 「いえ、そうじゃないんですが…。」
 心配している根岸先生をよそに内心私は悪いが今は放っておいて欲しいと思っていた。
 「先生、今晩、予定とかってあります?」
 「えっ!?」
 心配していたのかと思うと突然何を言い出すのかと私は目を見開いた。
 「先生、最近何か気をはってらして、疲れてるようですのでもしよかったら今晩、契機づけに一杯どうかなって…」
 根岸先生はコップを持つしぐさをした。
 「ああ!もちろん、体調がよかったらの話ですけど…」
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