女教師
照れ笑いをしている根岸先生を見ていると私も思わず微笑んでしまった。こんなに気を使ってくれているのに私ったらさっきは何てことを思っていたのだろう。
 「どうでしょぅ?」
 根岸先生が顔を覗きこむ。
 「…ええ。そうですね。リフレッシュも兼ねて是非。」
 根岸先生の顔が笑顔で満たされていくのを私はじっと見つめていた。
 「やったあ!では時間は後ほど」
 根岸先生は軽く会釈をすると踊るように去っていった。
 そうたまには息抜きも必要かもしれない。私は根岸先生に少しだけ感謝した。

 そこはオペラの曲がかかった雰囲気のいい少し高級なお店だった。丸テーブルに絹の布地がひかれており、ふと上を見上げると豪勢なシャンデリアが私たちを見下げていた。こんな場所にいると日々教師として悩んだり苦しんだりしている自分を忘れてしまうような感覚さえ抱いてしまう。初めてこんな独特な雰囲気が漂うお店に来た。もし根岸先生と知り合わなかったら私は一生こんな店に来ることはなかったというほど素敵な場所だった。
 「根岸先生、いつもこんな場所に来られるのですか。」
 ウエイターに“いつものワインを2つ”と注文すると根岸先生は私を見つめた。
 「うーん、たまあにですよ。」
 そうしていつものニコニコ顔を作る。
 「へー、根岸先生ってお金もちなんだ。」
 私は子どものように目を輝かせて尋ねた。
 「…興味ありますか。金持ちに…。」
 一瞬、根岸先生の雰囲気が暗くなった気がした。あんなにいつも陽気な人なのに。
 「い、いえ。ただこんな場所を知っている人って私の周りになかなかいないなあと思って。」
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