女教師
「また、彼の話ですか。せっかくプライベートを楽しんでいるのに仕事の話は後にしましょう。ね、先生。…いや、今は教師としてではなく、一人の女の人として…舞さん。」
 根岸先生の熱いまなざしに私は一瞬ドキリとした。根岸先生の表情はとても鮮やかに変わる。そこにどこかセクシーさがあり、でもミステリアスなところもある。不思議な人だという思いが私の心の中に留まった。根岸先生はワインの入ったグラスを片手で回しながら微笑した。
 「根岸先生は気にならないんですか。兼山の事…。私真剣に彼に学校に来て一緒に勉強して欲しいと思っているんです。それは一教師として大切なことだと思うから…」
 「ええ、そうですよね。でも私は今、あなたと二人でいる時間を楽しみたいんですよ…」
 根岸先生はサラッとそう言葉を吐き出すとニコニコと笑顔を作った。
 『どうして、教師ってこんなものなの?』そんな思いが私の心の中を駆け巡った。根岸先生はまるで兼山東の話題を避けるかのように一人、ベラベラとしゃべり出した。私はこの先生のことが初めてわからなくなっていた。
 ―ある日曜日の朝―
 私の部屋中に電話が鳴り響いた。二、三回鳴り終えると重い体を無理に起こして受話器をとった。
 「ちょっと!あんた、また東に何かしたの?」
 朝から甲高い怒声が私の耳に響いた。その声は中野樹里だった。声から察すると彼に何かあったらしい。
 「兼山くんがどうしたの?」
 「とぼけないでよ!いなくなったのよ。昨日からずっと家に帰ってきてないの!あんたのせいでしょ!?」
 「と、とにかく探そう!私は藤井先生に連絡してみるから。」
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