女教師
「東に何かあったら許さないからね!」
 そう言って中野樹里は荒々しく受話器を切った。私はすぐに藤井先生に連絡を取ったが家族サービスでどこかに旅行しているのか何度かけても電話には誰も出なかった。
 仕方なく私は着替えてとりあへず学校へ行くことにした。
 校内に入った瞬間、あの、最初に聞いた悲しいピアノの音色が私の耳に入り込んできた。私は音楽室に直行した。
 「兼山くん!!心配したのよ!?」
 そう私が彼に向かって叫ぶと、ピアノを弾く手を止めた。
 「何が?俺がいつあんたに心配かけたんだよ。」
 「中野さんだっけ?彼女、心配して私のところに電話してきたのよ。あなたがいなくなったって…」
 「ああ、あいつ、いっつも俺ん家にくんだよな。うざいから一人になりたくてよ。一番ここが落ち着くんだ。」
 彼はピアノの前で座りながら肩ならしをした。
 「でも中野さん、随分心配していたのよ。」
 私がそう言うと彼は黙りこくった。
 「ねえ、兼山くん、本当は学校に来たいんでしょ?じゃなかったらわざわざ休みの日に学校になんてきたりしないもの。」
 「うるせえな、まじ犯すぞ、てめえ。調子に乗りやがって。副担任だか何だか知らねえけど、教師ヅラされんの迷惑なんだよ、新米のくせに…」
 彼は凶器に近い言葉で私にそうぶつけた。
 「兼山くん、私は決してそんなつもりじゃ…」
 私は彼を落ち着かせるように言葉をかけた。少しだけ怖かった。まだ子どもでももう思春期を半分過ぎた大人だ。そして力もある。私はできるだけ彼と話をしようと試みた。
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