女教師
「間に合ったね」
 そう言って彼は息を切らしながら私に笑いかけると、髪をかきあげた。そのしぐさに我を忘れ、一瞬、私は胸を揺さぶられてしまった。『私ったら、何を七つも年下の子どもにときめいてるの?あ~やだやだ、疲れてるのかしら…』そんな思いがわきあがる。端から見れば私たちはどんなふうに映っているのだろうか。姉弟かしら。それとも教師と生徒。恋人同士になんて見えているのだろうか。それでも決して結ばれることのない関係なのだと私は他のカップル達を見ながら感じていた。
 「先生、どしたの?」
 彼はかがんで私の顔を覗くとあどけない表情でそう尋ねた。彼は背が高かった。身長158センチの私に対し、180センチというとてもスレンダーな体形だった。
 私は自分の考えていることにハッと気づいた。何を考えているんだろう…。これはクラブみたいなもので引率と考えればいいのよ。『恋人同士』なんて一瞬でも思ってしまった自分が本当に恥ずかしかった。
 「本当、ばかみたい…」
 「えっ!?おれ?」
 「あ、いや。ち、違うのよごめんなさい。独り言。先生、独り言が多い歳になったみたいで…」
 そう言って私は恥ずかしく思いながらも彼のほうをふと見上げた。
 彼は屈託のない笑顔をつくっていた。そうしていると本当に普通の高校生なのに両親が殺され、いろんな悩みを抱えていたんだ。私は心からこの子の力になってあげたい、絶対に裏切ったりしないそう彼の笑顔を見て誓った。
 「先生、次で降りる支度して。」
駅を降りるとそこは無人駅だった。何もない。ただ私の目には緑色の風景だけが映っていた。
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