女教師

どうして。いつからなんだろう。この気持ちは。私の目に彼は、生徒ではなく、一人の男性として映っていたのだった。私の人生は彼と付き合うことで果てしない闇へと転落していくことになることを私はおろか、彼さえ知る由もなかった。
　それから三日後のことだった。私の元に一通の手紙が届いた。裏を見ても名前は無い。私は不思議に思いつつ中を開けてみた。すると三つに折りたたまれた便箋が一枚入っている。私は無意識に見開くと、そこには驚くべき内容が書かれていた。　
　“兼山東と何をしていたか知ってるぞ”
印字された無造作な文字…私の心に闇が走った。もちろん彼と付き合っていることは誰にも言っていない。いや、言える訳がない。世間では私たちは教師と生徒なのだから。それが一番よくわかっているのは多分私と彼だろう。しかし当然、この手紙のことを彼に言える訳はなかった。彼と会っているときも、学校にいるときもそのことは私の心にずっと付きまとっていた。
　「ちょっと！どういうことなの？これ…」
　放課後の静かな図書室で中野樹里がすごい剣幕で私に封筒をたたきつけた。私は図書室が静かなせいか、今の彼女の怒鳴り声が聞こえていないかどうかドアの方にチラッと目をやってから、叩き付けられ、落ちた封筒を拾うと中身を確認した。
　「え！？なんで…」
　心臓が高鳴った。それは私に送られてきた奇妙な手紙の内容とそっくりだったのだ。
　―笹倉舞と兼山東は付き合っている―
なぜ私たちが親密な仲だということを知っているのだろう。彼女にも送られてきたということは身近な者の仕業に違いないと私は直感した。
　「ばらしてやるわ…許せない…私に何ていったのよあんた！そうやって私も東も騙して楽しんでんでしょ？絶対に許さないわ」