女教師

憎悪をたっぷり込めた言い方は本当に鬼気迫るものがあった。私は悪寒を感じながら彼女に弁解しようとした。
　「ち、違うわ。兼山君とは本当に何でもないの。こんなのただのイタズラよ。」
　とっさに嘘をついた。その瞬間彼の悲しい顔が頭をかすめた。しかし『ばらしてやる』と言われた時、私の中で何よりもそれが弱みになっていた。やはり人の目が怖かったんだ。
　「違うって言うのね。だったら東の前でそう言って！あなたはただの生徒。何とも思ってない。そう言ったらこのこと全部忘れてあげるわ。」
　「わかったわ。」
　そう言うしかなかった。先生達の目、他の生徒の目が現実となって私に襲いかかってくるのがわかっていたからだ。
　「東。笹倉先生が東に話があるって。」
　中野樹里と私は彼のアパートへ足を運んだ。うつむいている私に彼の熱い視線を感じる。
彼は私と彼女の意外な組み合わせに戸惑いながら少し沈黙した。　
「…まあ、入れよ。」
そう私と彼女を促した。
「話って何？」
三人とも居間に落ち着いてから、一言も言葉を発しなかったがついに彼が切り出した。間をおいて中野樹里が私の方を睨んだのが視界に入る。私はとうとう逃げ場を失い、呟くように話し出した。
「あのね…、中野さんが疑うのよ。私と兼山君が付き合ってるんじゃないかって…。そ、そんなことある訳ないのにね。あ、あなたと私はただの教師と生徒なんだもの。それ以上の関係なんてあり得ないわ。」
後半のほうはほとんど勢いだった。自分の心と裏腹にこんなことを言ってしまってから後悔した。嘘をつくことがどれだけ痛いか、そしてこの人を傷つけていることが今まで生きた中でこの時やっとわかったような気がする。