女教師
「…ああ。何の関係もない。ただの生徒と教師だよ。ただ、俺は先生に恩を感じてるからお前にはそう見えてしまったんじゃない?」
彼は大人のような口調で彼女に優しげな言葉を投げかけた。私は悔しかった。ただ生徒と教師という境遇にいるだけでこんなにも批判され、好きな人にも嘘をつかなければいけないということが。そしてすぐにこの場を立ち去りたかった。
「先生。もう帰ったほうがいいね。俺、送るよ。」
「え、そしたら私も行くよ。」
中野樹里は不安そうに彼を見つめた。
「お前はここで待ってろ。話があるから。」
「でも先生と二人っきりになるの?」
「送るだけだよ。それ以上の関係ないって言っただろう。」
中野樹里は、何か言いたそうな表情で私を睨みつけると彼に向かってうなづいた。
部屋を出て、彼の横顔を見つめながら私は言った。
「あ、のね。ごめんなさい。本心じゃないのよ。あの場を繕うための…。」
私は相当焦っていた。
「…わかってるよ。学校にばらされちゃ、先生辞めさせられちゃうもんな。」
彼はため息混じりに私の方を見つめて微笑んだ。彼のほうがよっぽど大人だ、そう思った。
「中野さん宛てにね、手紙が送られてきたの。私とあなたの関係のこと…。」
「うん。多分そんなとこじゃないかと思ってた。俺たちのこと知ってる奴がいるってことだな。樹里に問いつめてみよう。」
「さっきは、あんなにうまい嘘ついて、一瞬、本当にそう思ってるんじゃないかって不安だったけどよかった。」
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