女教師
私は長い息を吐きながら言った。そして彼の首に手を回す。さっきまでの後ろめたさが嘘のように、幸福感が彼を抱きしめた途端、満たされていった。私は見た目よりも大人じゃないのかもしれない。さっきは不安がり、今はこうして安心して彼の腕の中にいる。こんなことじゃいざという時に彼を守りきれない。その反面、彼はしっかりと状況を把握し、冷静に私のために嘘をついてくれた。そんな所が私にとって彼の尊敬する部分となり、又愛を深めていくことにもなった。
「大好き。」
「俺もだよ、先生。」
彼はもっと強く私を抱きしめた。

「先生、今日お暇ですかー。」
いつものニコニコ顔の根岸先生が私の肩をポンと叩きながら声をかけてきた。
「え?どうしてですか。」
「実は着任された先生方の歓迎会、まだでしたでしょ。いろいろ笹倉先生もありましたし、特に兼山東のことでは…だから今日、改めてやることにしたんです。」
「ああ、よかったのにそんなこと。歓迎されるほどのことは何も…。」
「いえ、先生はこの学校に来てから大活躍ですよー。兼山を更生させたって。」
根岸先生の口から“兼山東”という言葉を聞かされるたびに私の心臓の音は大きくなっていくような気がした。
「笹倉先生―!こっちです。」
大きく手を振っている根岸先生が見えた。
「お待たせしました。早いんですね。まだ五分前なのに。」
あたりを見渡すと私と根岸先生以外の人の姿は見えなかった。
「他の先生方、まだ見えませんね。」
「そりゃそうでしょう。あなたしか誘っていないですもの。」
「えっ!?どういうことですか。」
私が疑問を持つのも気にせず、根岸先生はグイグイと私の肩を押す。
< 31 / 74 >

この作品をシェア

pagetop