女教師

「まあ、立ち話も何ですからとりあへずお店へご案内しますよ。」
「どういうことですか。」
私は根岸先生に対し、少しきつめに言葉を投げかけた。
「まあ落ち着いてください。」
その店の席に落ち着くと、根岸先生はいつものニコニコ顔をつくりながら言った。
「先生にね、大切なお話があるんです。」
今度は真剣な表情で私を見つめる。なぜか私はこの時百面相を思い出した。しかしいつもと違う根岸先生の真剣な表情に私もかしこまる。そして、根岸先生のペースに巻き込まれないように冷静に言った。
「わかりました。話が終わったら帰らせてもらいます。」
「笹倉先生。ずっとあなたを見てました。好きです。僕とお付き合いをしていただきたいのです。」
根岸先生は、一息つくと一気にそう言った。いつものニコニコ顔はそこにはなかった。あるのは真剣な表情だけ。そんな根岸先生に一目置いてしまった。でも私には彼がいる。だからどう断ったらいいのか、そればかり考えていた。
「笹倉先生…。」
「あ、の…ごめんなさい。」
「え？誰か他に想う人でも…」
私は根岸先生の質問に答えることなくずっとうつむいた。
「誰なんですか。今交際中なんですか。」
私はもっと深く頭を下げた。
「………そうですか。し、仕方ないですね。でも、私はあきらめが悪いんです。もし、あなたに隙があったらいつでも攻めますから。」
根岸先生はもうニコニコ顔に戻っていた。
「いえ、先生のお気持ちは嬉しいです。とても。でもごめんなさい。」
「先生。一つだけ質問に答えていただけますか。」