女教師
根岸先生の言葉の調子が変わったので私はうつむいていた顔を上げた。
「その交際中のお相手とは今幸せですか。」
「・・・はい・・・。」
私は根岸先生に対し、後ろめたさと、恥ずかしさでいっぱいだった。それは根岸先生が彼、兼山東という存在を知っているからだった。
「そうですか。これからもいい同僚でいましょう。よろしくお願いします。笹倉先生。」
「ええ。ありがとうございます。」
互いに握手するとなんだか教員同士の絆で結ばれた気がした。私は悪い気がしなかった。そう思っていたのは多分私だけだったのだろう。
「ああ。なんだかすっきりしたなあ。まあお酒でも飲みませんか今夜は。」
「ええ。そうですね。私もなんだか気分がいいんです。」
ギラリと根岸先生の目が光ったが私はそんなことを知る由もなく、ただその雰囲気に酔っていた。
「笹倉先生。大丈夫ですかー。」
自分で歩けなくなるまで酔ってしまったことを少し後悔しながら私は根岸先生の肩を借りてその店を出た。
「笹倉先生。家、どこですかー。」
問いかけながら、根岸先生はタクシーを拾うため手を挙げる。もう私は半分夢の世界だった。
しばらくしてタクシーが止まると二人ともなだれ込むように飛び乗った。その頃には完全に私は意識がなくなっていた。根岸先生は表情を変え、運転手に私の住所を告げると無言で車は走り出した。根岸先生はポケットから勝手に私の鍵を取り出し、鍵を開けて私をベッドに運んだ。ベッド脇に根岸先生が座りながら私の髪を触る。
「…この髪も、この顔も、この胸も、全部私のものだ。他の誰にも渡さない。」
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