女教師
根岸先生は薄ら笑いを浮かべながら、張りめぐらされた私の写真の一部に頬ずりをした。
「東?どうしたの?なんかあったの?」
中野樹里が心配そうに彼の顔を覗きこんだ瞬間、彼は中野樹里を抱きしめた。
「ひ、東?いったいどうしたっていうの?」
「・・・のままで・・・。」
「え?」
「…しばらくこのままで…。」
消え入りそうな声で彼は言う。彼の私を思う気持ちは想像した以上に深かった。そんな彼の気持ちをあざ笑うかのように私たちは根岸先生の策略にはまっていくのだった。
暑さが増すそんな頃だった。
「じゃ、これで授業終わります。号令。」
暑さのせいか、生徒たちの集中力はかなり欠けていた。そしてそんなことを思いながら職員室へ戻ろうと戸を開けたその時だった。
「えー!やっと兼山君と!?」
「やったじゃん。樹里。おめでとう。」
3~4人の女の子達が中野樹里の机を囲ってそんな話をしていたのだった。そして次の瞬間、彼女は私の視線に気がつくと、女の子達を囲みながらこう言ったのだった。
「ありがとう。本当に嬉しいよ。こうやって東と付き合えたの笹倉先生のおかげだもの。」
一斉に周りの女の子達が私の方を向く。私の胸に電流が走った。ビリビリと心臓が引き裂かれていくような感じだった。我を忘れて私は3Aの教室に飛び込んだ。
「兼山君、いる?」
私は男子生徒の一人に尋ねた。
内心慌ててはいたのだが、声は落ち着きはらっていた。
「ああ、あいつ一人になりたいとかいってたから多分屋上じゃないかな。」
私はすごい勢いで屋上のある階段を駆けあがった。そして一人、柵にもたれかかっている彼に目をとめた。
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