女教師
「中野さんと付き合っているんですって？」
たしなめるようにゆっくりと彼に近づく。
「先生！！」
彼は私の目を見ずにうつむきかげんでこう言った。
「・・・ああ。」
「わ、私のこと騙していたの？」
「…教師となんか本気で恋愛する馬鹿どこにいんだよ。あんたがおもしろい反応ばっかするからからかってただけだよ。おかげで楽しい時間が過ごせましたよ。笹倉先生。」
気がつくと私は彼の頬を思い切り引っぱたいていた。その後には涙が次から次へと頬を伝い落ちてくる。この人の前で涙を見せてはいけないと思えば思うほど次々とその雫はあふれ出た。
「先生、もしかして俺のことそんなに本気だったの？じゃあ、最後にお別れのキスをしてあげるよ。」
近づこうとする彼を押しのけ、私は屋上の階段を駆け下りた。これは夢だと思いながら一歩一歩駆け下りるとさっきの出来事が繰り返し私の頭の中で映像になって映しだされるのだ。そのたびに私は現実の出来事だと実感させられるのだった。
「笹倉先生、どうしたんですか。」
一目散に根岸先生は私に近寄ると心配そうな顔つきで見つめた。
「すみません。ちょっと気分が優れないので、今日は早退します。」
「どこか具合でも…。」
「ええ…。」
根岸先生の言葉をさえぎって私は答えた。正直、心配してくれているのはわかっているのだがそれ以上誰とも話したくなかった。今は独りになりたかった。

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表紙・目次

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