女教師
「あ。」
ふいに私が教科書を落とした時だった。たくさん荷物を抱えていたため、なかなか落とした教科書を拾えず悪戦苦闘していた。とその時ふいに誰かが教科書を拾ってくれた。私は荷物で前が阻まれているため、お礼を言おうと体形を横にずらした。
「ありが…。」
一瞬、顔が凍りつくのがわかった。そこには彼、兼山東が立っていたのだ。そして二人の間にしばらく沈黙が続いた。
「根岸と付き合ってんの?」
音楽室へと連れ去られた私はそんな質問を受けていた。もちろん誰もいない。
「どうしてあなたにそんなこと聞かれなくちゃならないの?」
裏切りは怒りへと発展しながら私はそう彼に返した。
「あいつだけは、絶対にだめだ。」
何の根拠があって彼がそう言ってくるのか私には全く理解できなかった。そう何もわかっていなかった私にはあきれ返ってものが言えないという状況にあったのだ。
「どうして?ただの生徒のあなたになぜそこまで言われなくちゃならないの?根岸先生に失礼だわ。教師同士のことまで子どもが口出さないで!」
怒りに任せて私は語調が強くなった。もう彼の前で大人の対応はできなくなっていた。
「だって、あいつは…。」
そこまで言うと彼は一瞬躊躇した。そして次の瞬間、私を強く抱きしめたのだ。
「先生。もう我慢できない。俺、やっぱり先生じゃないとだめだ…。」
「ちょっと、どうして…。なんでよ…。」
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