女教師
根岸先生は諭すような脅迫するような口調で彼に言った。
彼は困惑したような辛い表情を見せると私の方を見つめながら何かを訴えるような顔つきでゆっくりと去っていった。
「根岸先生、あの、彼との約束って何ですか。」
私は根岸先生にそう問いかけると、いつものニコニコ顔になって言った。
「いやあ。彼がトイレでタバコを吸っていたので職員室に連れて行こうとしたらもう絶対にしないから見逃してくれって言われて、じゃあ授業にサボらずに出るのが条件だっていう約束を取り付けたんですよ。」
「そうですか。」
私はそう返事をしたものの納得がいかなかった。だって彼はタバコは吸わないんだもの。誰かが嘘をついて誰かが真実を言っている。あの二人の間でどんな秘密が交わされているのだろう。そしてそれに私が深く関わっているということも全く知らずにいた。
「ピンポーン」
ドアを開けると私の心臓が一瞬高鳴った。
「先生。話があってきたんだけどちょっといい?」
彼が私の家に来るのは初めてだった。相当重要な話があったのだろうか。戸惑いながらも私は自宅へ彼を促した。彼の雰囲気はかなり重苦しい。
「どうぞ…。」
私は彼にお茶を差し出すと彼は何も言わず礼だけした。
「俺、先生のこと遊んでた訳じゃないよ。それに、それにまだ好きなんだよ先生のこと…。」
「どういうことなの?」
頭が爆発しそうになるのを必死に抑えながら彼の話に耳を傾けた。
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