女教師
「馬鹿野郎!てめーなんか他人じゃないか!ふざけるな!!」
と3Aの教室から怒声が飛んできた。教室中に群がっているやじうまたちをかきわけながらやっと現場にたどり着くと彼、兼山東が藤井先生に怒声を浴びせ、担任の藤井先生を何度も殴りつけているシーンだった。私はそれを目撃した瞬間、体が勝手に動いていた。
「やめなさい!兼山君!」
私は彼に近づき殴っているほうの手を掴んだ。
「うるせー!どいつもこいつも!結局、おまえら他人じゃねえか。おまえも、おまえも!心配したふりすんな!むしずが走んだよ!おまえら見てっと。問題児だと思ってるくせに正義感振りかざしやがって!」
私は考えるよりも先に彼の右頬をひっぱたいていた。生徒や先生方がその音を聞いて急に青ざめたような顔をした。
「…そうよ、他人よ!あなたと私をつなぐものなんて一つもないわ。でもどれだけ先生や友達が心配してるかあなたにわかるの!?あなたの気持ちなんてまだ私にはよくわからない。けれどきっと力になってあげられるわよ、だから…。」
「フン、安っぽいドラマは他でやってくれよ!お前なんかに俺の気持ちがわかってたまるか!」
彼は私の話しが終わらぬうちに教室を出て行った。彼の目はまるで誰も人を信用しない、いや信用できないというような人間を憎悪している獣のような目に見えた。私は言ってしまったあとで微かな悪寒を覚えた。
「笹倉先生!安易に生徒に手を出されぬようお願いしますよ!」
厳しい口調で教頭は私に叱った。
「でも笹倉先生のなされたことは人間が成長する上では必要なことだったのではないでしょうか。」
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