とんでも腐敵☆パートナー
 グリコの殺人弁当騒動で騒々しかった昼食が終わり、午後はまた海に入って遊ぼうとのグリコの提案に。
 
「私はパス。浜で本でも読んでるわ」
 
 協調性の欠片もない立倉が言った。
 
「あ、祥子ちゃん。それなら俺のゴムボートでどう?」
 
 すかさず高地が申し出る。
 
 実は俺達が荷物を取りに行ってる間、高地は拝島の忠告をものともせずひたすらゴムボートに空気を吹き込み続け、なんと、とうとう完成させてしまったのだ。
 
 恐るべき執念である。
 
 
「ゴムボート……って、使ってもいいのここ?」
 
「監視員もいないし大丈夫だよ! 錘を垂らしておけば流されないし、海の波に揺られながら読む本は最高だよきっと!」
 
 どの辺が最高なのか。波に揺られながらの読書など、見るからに船酔いしそうだ。
 
「ボートの上で読書なんてあり得ないでしょ」
 
 案の定、立倉に突っ込まれている。
 
「じゃあ、じゃあさ、俺と一緒にボートの上で本について語り合うってのは……」
 
 結局それが真の狙いか。
 
 だが当然というか立倉の返事は。
 
「悪いけど興味ない。貴方の本の知識にも、貴方にも。全く全然興味ない」
 
 予想を超えて手厳しい拒絶だった。
 
 高地の顔が情けないほどに歪んでいく。
 
 ひざまづき、砂浜にがっくりと手をつく様子は、まさに夢破れたり、といった風情だ。
 
 高地には悪いが、どちらかというと見ていて面白い。
 
「高地さん、ふぁいとー」
 
 グリコの全く気合の入ってない声援が、更なる哀愁を添える。
 
「ううっ……挫けない……すんごく心が折れそうだけど、挫けるもんかぁ~~。高地元治の夏はまだ始まったばかりなんだっ……」
 
 地面の砂をぎゅっと掴んで滂沱する高地。
 
 それを見た立倉の心が動かされたようには見えなかったが。
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