とんでも腐敵☆パートナー
「私を変態と呼ぶなら、貴方も変態と呼ばれる覚悟があるんですよね!? この変態! ホモ男! 鬼畜攻め!!」
 
「ちょっと待て! 今さらりととんでもないことを口にしたか!?」
 
「しましたよ! ごまかしても無駄です! 貴方からは鬼畜の匂いがプンプンとします! 拉致監禁強姦とか平気で企む匂いです!」
 
「なっ。なんつーことを大声でっ!」
 
 俺はこの女が思った以上に取り扱い要注意な危険人物であることに気付いた。
 慌てて女の口を手で塞ぐ。
 
「むぐ、むがーっ! むぅ――っ!!」
 
 ここが日本でなければ今すぐ絞め殺したかもしれない。それほどこの女はやばかった。
 
「頼むから静かにしてくれ。大声を出さなければ離してやるからっ」
 
 俺が声を潜めて言うと、女も納得したらしく、じたばたもがくのを止める。
 
 俺はほうっと息をつき、ゆっくりと女から手を離した。
 
「……悪かった。もう変態女とは言わない」
 
 ここは素直に謝った方が賢明だろうと思われた。
 
「分かればいいのです。その言葉は禁句です。よーく肝に銘じてください」
 
 なんでそんなことを命じられなければならないのか理不尽な怒りが込み上げてくるが、またヘタに刺激すると不味いのでとりあえず頷いておく。
 
「代わりと言ってはなんですが、私のような者を世間一般では腐った女子と書いて『腐女子』と呼びます。BL――ボーイズラブをこよなく愛する女性のことです」
 
 そんな薀蓄(うんちく)は知りたくもないのだが。
 
「なんとなく聞いたことのあるフレーズだな」
 
 俺は記憶力がいいので一度見聞きしたものは大抵忘れない。『腐女子』――確かにどこかで聞いた言葉だ。
 雑誌か何かで見かけたことがあるのかもしれない。
 
「最近流行ってますからね」
 
 そんなものが流行してるとは、大丈夫なのかこの国は。
 
「まぁアンタの呼び名は正直どうでもいい。尾行するのを止めてもらうにはどうしたらいいんだ?」
 
 俺は出来得る限り下手に出た。
 この際プライド云々は脇に置いておく。この腐女子を一刻も早く追い返すことが先決だ。

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