とんでも腐敵☆パートナー
 もどかしく身を震わせていると、今度は横から手が伸びてきて、あたしの手にハンカチを握らせてくれた。拝島さんが耳元に小さな声で囁きかけてくる。
 
「これで口元を押さえてなよ」
 
 おぉ~。お兄ちゃんナイス!
 
 遠慮なく使わせていただきます!
 
「ありがとお兄ちゃん。後で洗って返すよ」
 
「いいよ、そのままで」
 
「でもヨダレまみれになるよ。お兄ちゃんがヨダレマニアならいいんだけど」
 
「え……と。じゃあ洗って返してね」
 
 微妙な顔をする拝島さんから視線を前に戻す。
 
 映画が面白いからついそっちに意識が向いちゃうけど、あたしが二人の後ろの席をわざわざ確保したのは、当然ながら高地さんのセクハラ防止のためだ。
 
 暗闇とムードに乗じて祥子の手でも握ろうものなら、用意したジュースを頭からぶっかけてやる算段だ。
 
 だけどそんなあたしの心配は杞憂だったようで。
 
 結局高地さんは最後まで祥子に手を触れることはなかった。
 
 まぁ、そんなムードになれる場面もなかったしね。高地さん自身も笑い転げまくってたし。 
 
 こいつぁ誤算だったね高地さん。
 
 スタッフロールがスクリーンを流れる中、あたしはフフンと鼻を鳴らした。
 
 
 
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