とんでも腐敵☆パートナー
「無粋って……」
   
「だってその顔、雰囲気ぶち壊し。浸ってたのに笑かさないでよ」
  
 ぶぶっ。確かにその通り。
   
 真面目な雰囲気ぶち壊しの網目模様。さっきのひっかき傷は、ウソみたいに漫画の絵そのものだったのだ。
   
 真剣な顔されればされるほど可笑しくなる。
 
「そりゃ俺も内心『こりゃないっしょ~』って思ってたけどさ。そこは見て見ぬ振りしてよ」
 
「見て見ぬ振りなんかできるわけないでしょ。十人中十人が振り返ってたわよ」
 
「色男だから振り返ってたんじゃなくて?」
 
「どんな白昼夢よソレ」
 
「いやいや、『きゃ~あの人ステキ! 顔に傷のある男ってワイルドなカンジよね~』とか、百万分の一くらいの確率で思ってたかもしれないって!」
 
 ぷっ
 
「ば、ばっかじゃないのっ。それのどこがワイルドに見えんのよっ。――くっ」
 
 あ。
 
 祥子が――――笑った。
 
 
 頬を微かに緩め、肩を震わせて。今、弾みで漏れた笑い声すら聞こえた。
 
「祥子ちゃん――――へへっ」
 
 高地さんも目を細めてにへらっと笑う。軽薄な笑みだけど、高地さんの笑顔には厭らしさがない。どんな重い気持ちも笑い飛ばしてくれそうな――そんな安心感のある笑顔。
 
「なに」
 
 既に笑いを消した祥子は失態を見せたと思ったのか、ふてくされたような顔で高地さんを横目に睨みつけた。
 
「思った通り、笑った顔も可愛いや♪ 猫に引っ掻かれた甲斐もあったってもんだよ」
 
「ばっ!」
 
 ばっかじゃないの。
 
 そう、言おうとして言葉に詰まったような顔。
 
 その反応が嬉しかったのか、さらにでれっと頬を緩ませる高地さん。
 
 頭に血を昇らせた祥子がわなわなと震えて睨みつけるも、高地さんは引かない。あの祥子がなんだか子供扱い――信じられない光景だ。
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