とんでも腐敵☆パートナー
 章の顔に、絶望の色が広がっていく。
 
「もうお前を抱けない。それだけは確かだ」
 
「……っ!」
 
 章の腕は俺を押しのけ、最早どんな言葉も受け付ける気はないといったように離れていった。
 
 急速に失われていく体温。自分が望んだことでありながら、少し名残惜しく感じるのは、やはり人肌が恋しい人間の性なのだろうか。
 
 俺は走り去っていく章を追いかけることはしなかった。
 
 扉の閉まる音と共に、今度こそ決定的となった決別が、心にのしかかってくる。重い静寂が落ちてくる。
 
 俺はのろのろと立ち上がり、玄関の鍵をかけに行った。それからまたリビングに戻り、すっかり冷え切ったコーヒーカップを片付ける。
 
 僅かに零れた褐色の液体がテーブルの上に残った。
 
 倒れた時にテーブルが揺れたのだろう。布巾で一拭きすると、テーブルは元の白に戻り、章の痕跡はどこにもなくなった。
 
 これでいい……。
 
 全てが元通りになったかのように見えた。しかし料理を楽しもうとする心までは戻らなかった。
 
 とりあえずコーヒーを淹れ直そうかと考えてたところで、今度はリビングの電話が鳴った。
 
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