とんでも腐敵☆パートナー
「おや。栗子、バイト探しかい?」
 
 ぽん、と頭を叩かれて見上げると、バスタオルを頭にかけた市柿(いちがき)兄ちゃんがあたしの頭上から雑誌を覗き込んでいた。
 
 柔和な造りの顔が、風呂あがりのリラックスモードで更にほわっと緩んでる。
 
「人生経験として必要かなと思って」
 
「ええっ! 栗子からそんな言葉が聞けるなんてっ! に、兄ちゃんは感激だよ栗子っ!」
 
 市兄ちゃんには冗談が通じない。真面目で実直を絵に描いたような人なのだ。
 
「あっさり騙されんなよ市ニィ」
 
 呆れ顔の桃太がぽそっと言うが、
 
「働くことの大切さを知る栗子は偉いなぁ~。よぉーっし、及ばずながら、兄ちゃんも応援させてもらうよっ!」
 
 テンションの上がってる市兄ちゃんの耳には届かない。割と自分の世界に入り込むタチなのだ。
 
 あたしは紅茶をずずっと啜りながら期待できない応援は右から左に聞き流し、広告の文字を追う。
 
 なかなかいいバイトないなー。
 
「カテキョーとかがいいんだけどなー」
 
 目も疲れたのでパラパラとぞんざいにページをめくり始める。
 
「姉ちゃんがカテキョー!? 勘弁してくれよっ! 犯罪者になる気かよっ!」
 
「どういう意味よソレは」
 
「栗子、兄ちゃんもそれはちょっと不安というか……」
 
「姉ちゃんが教えるものっつったら腐道だろっ!? 相手の親が泣くぞっ!」
 
 
 ばこんばこんっ!
 
 
 桃太と市兄ちゃん、平等に順番に丸めた雑誌で制裁を加える。
 
 
「まずはアンタらが腐道に落とされたい?」
 
『す、すみませんでした……』
 
 頭を押さえて素直に謝る二人。あたしは身内には容赦ない。
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