とんでも腐敵☆パートナー

6-5. ロールスロイスはもう古い

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 一瞬、震えが走った。
 
 嫌悪感――生理的に受け付けないものを見た時に抱く感情だ。
 
 客間の扉口に立つ人物は、まさに嫌悪の対象だった。
 
 白髪混じりの髪を後方に撫でつけ、厳つい表情を貼り付つかせた男。神薙グループの会長。この男が笑うところなど誰も想像できないだろう。
 
「お久しぶりですね、神薙さん」
 
 努めて平静に応える。動揺した姿など死んでも見せたくない。
 
「こんばんは、冬也さん」
 
 神薙の後ろからは、更に嫌悪感を増す女性が現れた。この人の来訪はかなり意外だったので僅かに目を剥く。
 
「こんばんは、蓮実さん。お久しぶりですね」
 
 黒々とした髪をアップにまとめた、派手な顔立ちの女性。母と同じく年齢を感じさせない若々しさだが、この人の場合は女の生き血でも吸ってるのではないかという毒々しい雰囲気がある。恐らく口元の黒子が妖しさに輪をかけてるのだろう。
 
 神薙蓮実(かんなぎはすみ)は神薙海治の正妻だ。夫婦揃っての登場とは、これからパーティでも始まるのではないだろうか。
 
「近くのホテルに美味しいフランス料理の店がありましてね。そこを予約しておきました」
 
 父がいつもと変わらぬ穏やかな表情で二人を客間に招き入れる。
 
「私達もすぐ支度してきますので、ここでお待ちください」
 
 そう言って母と二人、客間を後にした。
 
 途端に静寂が落ちてくる。
 
 神薙夫妻は場慣れしているので所在無く落ち着かない様子など見せはしない。俺も間をもたせるために話題を提供する気など毛頭ない。
 
 終始無言のまま父と母が戻ってきた。
 
「では、行きましょうか」
 
 こういう時はなんのかんの言いつつもさすが経営者だと思う。
 
 凍りついた空気などものともせず、穏やかな笑みすら浮かべ、父は俺たちを案内した。
 
 門の外に待機していた黒のロールス・ロイス(神薙家の車)に神薙夫妻と父が乗り、俺は自分の車に母を乗せて出発した。
 
 
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