とんでも腐敵☆パートナー
 しばしの間、カチャカチャと食器の立てる音のみが響いた。
 
 そうしてスープ皿があらかた空になる頃、父が次の話題を持ち出し、何事もなかったかのように空気は再び流れ出した。
 
 母の横顔にほっとした表情が浮かんだのは無理のないことだろう。
 
 
 それにしても――
 
 神薙夫妻は、一体どういうつもりで俺に会いに来たのか。
 
 まさか顔を見に来ただけということはあるまい。
 
 到底あり得ないことだがそういう親の情めいたものを感じて来たのだとして、神薙蓮実がついて来る理由が分からない。
 
 神薙蓮実は先ほどの会話からも察せられる通り、俺を心底嫌っているのだ。いや、憎んでると言ってもいい。
 
 神薙が俺に会いに行くのを警戒してついてきたと考えるのが自然だろう。
 
 これまでの会話に、その真意を図れる要素はなかった。
 
 そして分からないのはもうひとつ。父と母は、一体どういうつもりでこの会合をセッティングしたのか。
 
 特に母には、辛い時間となることは目に見えているのに――――
 
 
「冬也」
 
 そんなことを考えていた時、不意に名を呼ばれた。はっと意識を掴まれる。
 
 顔を上げると神薙と視線が合った。感情の見えない底知れぬ力を秘めた目。一瞬、身が竦みそうになる。
 
「はい」
 
「卒業後はどういった方向に進もうと考えてる」
 
 どういった方向――――?
 
 俺は答えるのを躊躇った。
 
 何故、今、その質問が神薙の口から出る?
 
 父から出るべき質問が、何故神薙の口から。
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