とんでも腐敵☆パートナー
「今、グリコの名前は聞きたくない」
 
 俺は不機嫌を隠し切れずにぶすっと言った。
 
「え? なんで?」
 
 拝島が目をぱちくりさせる。
 
「あいつのおかげで携帯が壊れた」
 
 俺は昨日の出来事を脳裏に描きながら、再び湧き上がる怒りを抑えつつ言った。
 
 まったく、今思い出しても腹の立つ――
 
 
 昨日、緊迫した空気を保ったまま神薙夫妻との重苦しい会合は終わった。
 
 ホテルのロビーで別れ、父と母を実家に車で送った俺はとりあえず急場を凌いだことにほっとしつつ、胸ポケットに収めていた携帯を開いた。
 
 そこで受信したメールをまだ開封してなかったことを思い出し、案の定グリコからだったメールを開いたのだが――
 
 その時展開された画像は忘れようにも忘れられない。
 
 筋骨隆々、海パン一丁姿の黒人男性。ぐっと上腕二頭筋を見せ付けるポージングで白い歯を光らせてウィンクしてたのだ。 
 
『本文:たまには洋モノなんてどう?』
 
 
「なにが『どう?』だぁぁ――――っ!!」
 
 バキッ
 
 その瞬間、怒りのあまりに力を篭めすぎた携帯は呆気なく昇天した。軋んだ音を立て再起不能となったのだ。
 
 まったく忌々しい。
 
 あんなメールをまるでお守りのように後生大事に握っていたなんて、まるっきり阿呆みたいじゃないか。
 
 たまにはマシなモンを寄越してきたと思って気を許したらこれだ――。
 
 今度会ったら首を締め上げて泥沼にでも放り込んでやらんと気がすまん。
 
「えっ。な、なに? どうしたの?」
 
 拝島の少し怯えた声にはっと気付いて顔を上げた。
 
 しまった。今の叫び、声に出てしまってたか。
 
「あ……いや、何でもない」
 
 即座に顔を取り繕う。拝島は驚きの表情を可笑しそうな笑顔に変えた。
 
「あははは。なんか、大体想像つくけど。栗子ちゃんのこと思い出してたんだろ?」
 
「だから思い出したくないからその名前は口にしないでくれ」
 
「ぷっ……朽木、凄い顔。まったく栗子ちゃんは朽木の元気の素だね」
 
「そういう誤解もやめてくれっ!」
 
 
 妙に必死に叫んでた。
 
 
 
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