とんでも腐敵☆パートナー
「店長! あたし、風邪ひいたみたいなんで早退します!」
 
 言うなりあたしはカウンターの外に駆け出した。
 
「風邪!? その元気そうな様子のどの辺が風邪なんだね!?」
 
「いやもうふらふらで立ってられなくって。このまま走って帰りまーす!」
 
「なんか色々と矛盾してるぞぉぉっっ!?」
 
 しなびた中年の叫びなんかに構ってられない。全速力で愛人くんの後を追う。制服のタイトスカートとハイヒールのままなので走りづらいったらありゃしない。けど程なく彼の姿を発見することができた。
 
 信号待ちで止まってる拝島さんから少し離れたところ、建物の間の細い路地に隠れて、拝島さんの様子を窺ってるのが時折覗く茶色い頭でわかる。
 
 細い路地とは好都合。
 
 信号が青に変わり、拝島さんが歩き出す。射るような眼差しを拝島さんに向けた彼も路地から一歩身を乗り出す。
 
 そこにあたしが体当たりをかまして押し戻した。
 
 
「わっ!」
 
 
 全力で飛び掛ったのでもつれるように倒れこむ。チャリン、と音がした。
 
 顔を上げ、それを見る。細い路地にも射し込む夕陽が反射し、オレンジに染まる金属面。
 
 ぶつかった拍子に零れたのだろう。頭からすっと血の気が引いた。
 
 ――――ナイフ。
 
 なんでそんな物がここに、なんて疑問は愚問だ。路地の奥で尻餅ついてる彼がはっと上げた顔の色で分かる。
 
 彼が慌てて手を伸ばすよりも先にナイフを取り上げた。あたしの行動の方が僅かに早かったのだ。
 
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