とんでも腐敵☆パートナー
「偶然街で先輩を見かけて、思わず声をかけてた。相変わらず眩しくて、周囲の景色が霞んで見えたよ。僕なんかが先輩に声をかけるなんて、恐れ多いことだと思ったけど……声をかけずにはいられなかったんだ」
 
 先輩の傍にいたい。
 なんとかお近付きになりたい。
 あんなに何かを強く求めたことはなかった――章くんはティーカップの赤い液体を見つめながらそう呟いた。
 
「その時、初めて自分の気持ちに気付いたんだ」
 
「朽木……神薙先輩を、好きだって?」
 
「うん」
 
 頬を微かに赤く染めて、章くんは頷いた。
 
 確かに強い憧れは、時として恋心に変わる。章くんはまさしくそれだったのだろう。
 
「久しぶりに会った先輩は、中学時代より随分丸くなってた。最初は僕のこと胡散臭そうにしてたし、中学時代の話をするとあからさまに嫌そうな顔してたけど――僕の話を聞いてくれて。傍らに、僕の居場所を作ってくれた」
 
 ちりりん。
 
 今度は客が店内から出て行くと同時に鈴の音が響いた。
 
「嬉しかった。僕はもう、何処にも居場所がなかったから。一流私立や国公立大学の受験に失敗して、なんとか二流私立大学の法学部に受かったけど。父さんも母さんも落胆して……」
 
 
『もう、章の学力では弁護士は無理だろう。せめて行政書士の資格でも取れれば……』
 
『とりあえず公務員試験は受けなさい、章』
 
『しばらく私の事務所で働きながら資格を取る勉強をすればいい。弁護士でなくても法廷には立てるしな』
 
 
 ため息と共に自分の将来の相談をする両親。
 
 その姿を見る毎日は辛いものだった。
 
 
 弁護士はもう無理だろう――
 
 
 重すぎた親の期待。
 
 応えられなかったと思った時、章くんはどれほど自分を責めただろうか。
 
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