とんでも腐敵☆パートナー
 俺が章に抱いてた感情はなんだ? 拝島とは違う。だけど確かに感じてた。心が温かくなる何かを。
 
 
「章くんは、朽木さんの家族になったんだよっ! 章くんにとっても、朽木さんはたった一人の家族だった。無理に恋愛関係に持っていかなくたって、二人は一緒にいられた筈でしょ!? 誤ってエッチしちゃったくらい何だっての! 新しい関係を築くくらい、やってできないことじゃないっしょ!?」
 
 
 そうか――――
 
 今まで家族が大事なものだという意識はなかった。だから章をどう扱えばいいのか分からなかった。
 
 
 俺は、章に家族の温もりを感じてたのか――
 
 
「二人とも、バッカみたい! お互い必要なものを与え合ってたのに、独りよがりで苦しんでっ。相手がホントはどう思ってるかなんて、一度ケンカでもしたらすぐ分かることだよ。簡単じゃん!」
 
 こいつ――だから章を俺にけしかけたのか。
 
 俺と章の本音を引き出すために。俺が、本当は章をどう思っているかを言わせるために。
 
 子供じみた思慮の浅い作戦だが、結果として俺は自分の気持ちを言わされた。いや、章との口論でではなく、結局こいつに言わされた訳だが。
 
 
 俺は――いつも自分に自信がなさそうで、そのくせ明るく振舞おうと健気な笑顔を見せる章が――自分の弱さを知っているからこそ他者にどこまでも優しくなれる章が――――好きだった。大切だった。
 
 その優しさに触れるのが好きだった。その思いやりの心を見るのが好きだった。俺と同じ痛みを持ち、でも決して他者を罵ることなく努力しようとする章――守ってやりたい。力になってやりたいと思い、強くなって欲しいと願っていたのだ。
 
 
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