とんでも腐敵☆パートナー
「……憶えてないな」
 
「うん。言葉を交わしたのはその日だけだったから。でもその一言で、僕はもっと生きようと思った。あの日から、先輩は僕にとって特別な存在になったんだ」
 
 そうか。グリコの言葉に聞き覚えがあったのは、自分が言った言葉だったからなのか。
 
 あの頃は俺も必死に足掻いてた。他人に偉そうな口がきける立場じゃなかったろうに、我ながら気恥ずかしい台詞を言ったもんだ。
 
「先輩のおかげで生きてこれた。だから僕は先輩に焦がれてた。あの人の強さが欲しい。あの人みたいになりたいって――僕は、先輩になりたかったんだ。だから先輩の背中を追いかけてたのに」
 
「章……」
 
「なのに先輩と再会した時、きっとこれは恋だって思った。ごめんなさい、先輩――。僕は先輩と離れたくない一心で、恋人になろうとした。強くなりたいと思った自分を忘れて甘えてばかりいた。先輩の言葉を忘れてしまうなんて――本当に、僕って大馬鹿だ」
 
 俺の方こそ、途中から拝島とは別の大切な存在だとは感じたものの、最初は確かに拝島の代わりにしたというのに。相変わらず章は自分ばかりを責める。
 
 だが、それが章らしいというか。
 
「僕なんか誰かに期待されることも、誰かに必要とされることもないと思ってた。――でも、先輩は僕を大切にしてくれてたんだね。僕を家族だと思ってくれてたんだ。僕は少しでも先輩の支えになれてたのかな?」
 
「正直……俺も自分の気持ちがよく分からない。ただ――――お前が傍にいてくれるのは、心地良かった」
 
 それは本心から言えることだった。
 
「先輩……」
 
「守ってやりたいと思った。だけど俺にはそんな力はなくて……。すまん、章……。お前を支えてやれるのは俺じゃないと、お前から逃げるような真似を……」
 
 そうだ。俺は逃げていた。
 
 章を助けることができない自分から逃げていた。
 
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