とんでも腐敵☆パートナー
「本当に人付き合いが苦手だよね、朽木って」
 
 薬学部棟を出てしばらく歩いてから拝島が言った。
 
「気を遣わなきゃいけないからな。親しく付き合う友人は一人か二人で十分だ」
 
 本当のところは違うのだが、拝島が勝手にそう解釈してくれてるのでそういうことにしてある。
 
 俺と拝島になんとか近付こうとする女達を追い払うのは、最早日常茶飯事と化していた。
 
 女嫌いを隠すために食事に付き合うくらいはしてもいいのだが、一人を受け入れると奴らはねずみ算式に増殖していくので全員きっぱりと断るようにしている。
 
 あとはこれが一番の理由だが、拝島に彼女ができるのを阻止するという狙いがあった。
 
 拝島は優しいので、放っておくと情にほだされて狡猾な女共と付き合いだしかねない。
 
 拝島を女共の魔手から守るのはなかなか至難の業だった。
 
「あ、そうだ朽木。今日出された課題のレポートで、調べたいものがあるから、後でお前の部屋に行ってもいいかな?」
 
「ああ、いつでも」
 
 俺の部屋には、薬学系の専門書が山のようにある。いちいち図書館に調べに行くのが面倒なので使用頻度の高い本は一通り買い揃えたのだ。
 
「今日は俺、バイトないから5時頃になるかな。あと、こないだ言ってたCDも貸してもらってもいいかな?」
 
「好きなの選んで持っていって構わないぞ」
 
「サンキュー」
 
 にこっとはにかむような拝島の笑顔は可愛い。
 あどけない、とはこういうのを指すのではないだろうか。
 
「そういえば、昨日のあの子、面白かったなぁ」
 
 突然、拝島が思い出したように言った。
 
 不意を突かれて、俺の表情は固まった。
 
「栗子、のことか?」
 
「そうそう、いいキャラしてたよね、カノジョ」
 
 思い出したくもない。
 あれはここ一番の悪夢だった。
 
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