とんでも腐敵☆パートナー
「へぇ~栗子ちゃん、読書が趣味なんだ~。なに読むの?」
 
 場もそこそこ盛り上がりを見せた頃、あたしの隣に座った男の人が質問してきた。
 
 席替えで男女混合席になったのだ。
 
 なにって……。
 
 どう答えようか一瞬迷った後、見栄は張らないことにした。
 
「やっぱ恋愛ものかな。乙女チックなのが好きです」
 
 男と男の、だけど。
 
「女の子ってラブストーリー好きだよね。何かオススメある?」
  
 いっぱいあるけど薦められるわけがない。
 
 あたしは自分が腐女子であることを広言して憚らないけど一応場の雰囲気に合わせて隠す時もある。
 
 ここであたしが「ありますよ。例えば銀○の桂×銀本とかむっちゃ萌えで」とか言い出すと一気にひかれて空気が氷点下に陥るのは目に見えてる。さすがにそれは寺尾さんに悪いので、
 
「男の人には読むのも恥ずかしいようなのばっかですよ」
 
 と、無難にかわしておいた。
 
「俺もさ、本結構読むんだよ。川端康成とか森鴎外なんて全部読んだし……」
 
 へーほーふぅ~~~ん。
 
 そんなの自慢気に言われても凄いなんてちっとも思わない。
 
 男の人ってどうしてこう自慢話が好きなんだろ。
 
 そしてそんな風に語りワールドに入ってる時って、大抵相手がうんざりしてるって気付かないんだ。
 
 あたしは名前も覚えてないその人の話を右から左に聞き流し、さも聞いてるかのように顔を向けながら視線は窓の外に泳がせていた。
 
 この店は一面がガラス張りの窓なので外の景色が丸見えだ。
 
 つい、いつもの癖で、通りを行き交う人の顔を目で追ってしまう。
 
 この人もどうやらこの合コンで一番のイケメンだし悪くはないのだが、あたしは見る専門だから喋るのは苦手なのだ。
 
 苦手ってのは、口を開くとついバレそうになる自分の正体を隠しながら喋らなきゃいけないからだけど。
 
 その点、朽木さんと話すのは楽でいい。
 
 あたしは至上最高の攻め男の顔を思い出し、にへっと口許を緩ませた。
 
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