とんでも腐敵☆パートナー
「ああ……だが振り返るな拝島。目を合わさない方がいい」
 
 俺はその視線の主を、すでに認識している。
 ショーウィンドウに映った人影を盗み見て、どいつだが一発で分かった。
 
「なんだよ、照れてるのか朽木。アレ、お前のこと見てるんだろ?」
 
「どういう目で見てるのかは分からないけど、多分俺だな」
 
「どういう目って……そんなの分かりきったことじゃないか。結構可愛い女の子だよ。お前に話しかけるチャンスを窺ってるんだよ」
 
 拝島は妙に嬉しそうに言った。
 
 コイツの性格の良さからすると、そういう科白が出るのも仕方のないことだが。
 
 もう少し、現実を正しく見つめた方がいい。
 
 あれは恋する女の目じゃない。
 
「そこでお茶でもするか?」
 
 俺は道の先に見えて来たドトールを指差して言った。
 
 本当は今すぐあの女を振り切って逃げたいところだが、拝島の手前、そんなことはできない。
 
 むしろ積極的に話しかけるチャンスを与え、面と向かって用件を聞き出し、早々に追っ払った方がいいだろう。
 
 そう俺は判断したわけだが。
 
「極度の恥ずかしがりやなんだよ、きっと。こっちから話しかけてあげようよ」
 
 一人でテンション上げてる拝島は、言うなり突然踵を返し、件(くだん)の女の方に向かって走り出してしまったのだ。
 
 
 なんて危機感のない男だ!
 
 
 まぁそこがアイツのいいところなんだが、この場合はかなり不味い。ヘタしたら拝島が取って食われかねない。
 
 あの女の目は、飢えた獣のそれなのだ。
 
 俺は慌てて後を追いかけた。
 
「待て拝島! ヤツに関わるな!」
 
 焦ってつい本音が出てしまう。
 
 しかし、追いついた時は既に時遅しだった。
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