とんでも腐敵☆パートナー
 翻訳ソフトで日本語に変換された文書がプリントアウトされ、あたしはそれを片手に早速作業にとりかかった。
 
 この書斎みたいな部屋はローテーブルもあり、あたしはそこにプリントを広げ、床に直接座って作業する。
 
 朽木さんがPCの机についてワープロを使うのに対し、あたしは筆記用具を使ったアナログ作業。
 
 翻訳された日本語はところどころ文法がおかしく、それだけを読み進めることは不可能だった。
 
 やはり英文を基本に読み進め、分からないところがあったら訳文に目を移すのがやり易い。
 
 そうしながら章ごとの概要を日本語でまとめていく。最後にそれを英文に訳すのだ。
 
 
 そんな作業をあたしがえっちらおっちらこなしてる横で、朽木さんはコーヒー片手に椅子に背を預け、パラパラと英文資料自体に目を通していく。
 
 そしておもむろにキーボードを叩き、英文でレポートを仕上げていくのだ。日本語変換なんてしないのだ。
 
 朽木さん曰く、「こんなのはキーセンテンスを拾い上げてそれを適当につなげていけばいいことだ」だそうな。
 
 ネイティブかこのヒト。凄すぎる。
 
 隣で作業すると、あからさまな能力の差を見せ付けられてちょっとヘコむけど、落ち込んでる時間も呆気にとられてる時間もないので、もう必死。
 
 あたしにしては驚異的な集中力でひたすらペン先を走らせる。
 
 もうペンを握ってるのかどうかもはっきりしない程に痺れた手と静かな室内に休みなく響くカリカリカタカタの音は、色んな感覚を狂わせて。
 
 現実から浮き上がったようなふわふわ感の中、周囲の景色はアルファベットの集合体と化していた。
 
 それでもなんとか思考だけは留まることなく和訳英訳の作業を憑りつかれたように続け、半分以上なんとかまとめたところで、目の前にコーヒーのカップが置かれた。
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