とんでも腐敵☆パートナー
「ねぇねぇ、キミ、俺達に何か用なのかな?」
 
 それでも隠れてるつもりなのか、街路樹から半分以上身をはみださせた女に、拝島は優しく声を掛けた。
 
 女はあからさまにびくっと身を震わせ、一旦、樹の後ろに顔を引っ込めた。
 
「あははは、恥ずかしがらなくてもいいよ、取って食いやしないから」
  
 いや拝島、逆だ。捕食者なのはその女の方だ。
 
 女はおずおずという風に、樹から顔を覗かせてこっちを窺い見る。
 
 それからぽそりと言った。
 
「ばれてしまったようですね……」
 
 大バレに決まっている。どっからどう見ても不審人物だ。
 
 女は観念したようで、樹から全身を現した。
 
 所々にフリルがあしらってあるノースリーブのワンピースにローヒールの茶色のサンダル。若い女によくある服装。全体的に小柄なイメージではあるが、特に外見からおかしなところは見当たらない。
 
 髪は長めのストレートで今どき珍しい黒髪。顔立ちは悪くない……とは思うのだが、正直女の顔はよく分からない。俺にはどんな女も同じに見える。言えることはやや童顔、ってことくらいだ。
 
 女は上気した頬で、熱っぽい視線を送ってくる。
 
「すみません……実は駅からつけてたのです」
 
 そんなことは知っている。
 なんでバレてないと思えるんだ。
 
「勝手に観賞してたことは謝ります。ですがどうか私のことはお気になさらず、……を続けてください。私のことは空気と思ってもらって結構です」
 
 こんな濃密な空気が傍にあって落ち着けるか。
 
 ………………いや待て。今、なんと言った?
 
「え? なに? よく聞き取れなかったんだけど」
  
 拝島は女の声が小さかったのでなんと言ったのかよく聞こえなかったようだ。
 
 俺にも聞こえはしなかったのだが、女のもじもじした様子から言わんとすることを直感した。途端、戦慄が走り抜ける。
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