とんでも腐敵☆パートナー
 車中のグリコはとにかく煩かった。
 
「あーっ! 海! 見えてきたよっ!」
 
「いちいち解説しなくても見りゃ分かるわよ」
 
 冷たい表情の友人立倉に一蹴されてもまったくテンションは変わらない。俺の冷たい態度にグリコがまったくめげない原点をここに見た気がした。
 
 というかこの立倉という女、海に何しに行く気だ? 海水浴する姿は想像もつかん。
 まぁ俺も海に浸かる気はさらさらないが。
 
 周囲の景色は既に都市部を離れ、海の近くにまで来ていた。それほどの渋滞に巻き込まれることなく走れたおかげで、午前の比較的爽やかな海の風を感じることができる。
 
 久しぶりの運転はなかなか楽しかった。
 
 黒革のコンビハンドルはしっとりと手に馴染み、車との一体感を感じさせてくれた。乗り物を操作する醍醐味は、やはりハンドルを通して感じる乗り物との一体感だ。
 
 海岸線沿いの、カーブの多い道をゆったりと走る。陽の光が反射してキラキラと光る地平線が、山間を縫う俺の視界に、時折映っては過ぎていった。
 
 海水浴には興味はないが、こういう風景を目に入れるのは悪くない。
 
 バックミラーに映る拝島の赤い車に気を配り、時折合図を送りながらペースを合わせて走るのも。拝島と呼吸を合わせてるようで、楽しくなる。
 
 拝島の運転はかなり安定していた。初めての車なので多少心配してたのだが、それは杞憂だったようだ。
 
 若葉マークをつけないのか? とからかい半分で訊いた時、「そんなカッコ悪いのやだよ」と拗ねたような口調で言う拝島の顔を思い出して思わず笑みがこぼれた。
 
「あー! なんかスケベな笑い!」
 
 くっ。グリコに見られたか。
 回想は一瞬で掻き消された。
 
「何がスケベだ。そういう周囲に誤解を招く発言はよせと言っただろ」
 
 ここには立倉もいるというのに。
< 81 / 285 >

この作品をシェア

pagetop