とんでも腐敵☆パートナー
「人が多いのも夏っぽくていいんじゃない? あたし喉乾いた。海の家探そ?」
 
 池上という女が緩いパーマのかかった髪を風になびかせて俺達を通り越していった。
 
 彼女が砂浜を行くと、数人の男が振り返る。
 
 ああいうタイプが女の中では一番付き合いやすい。媚びてくることはないし、無理に会話を進める必要もないからだ。大抵は相手のペースに合わせてくれる。
 
「真昼ちゃーん! 俺も行くよー!」
 
 金魚のフンよろしく高地が後を追って行った。
 
 ……高地。残念だが、その女はお前の手に余るぞ。
 
 どう考えても、高地の失敗談がひとつ増えるだけのような気がして、その背中に哀れみの視線を送っておいた。まぁ正直どうでもいいんだが。
 
「ところで朽木。珍しいね、そんな大荷物持ってくるなんて。いつも余計なものは持ち歩かないのに」
 
 気が進まないながらも歩き出す俺の横に並んだ拝島が、俺の抱えてるバッグの大きさに気付き、少し驚いた顔で訊く。
 
 それはまったくその通りで、今俺が肩にひっかけてるパンパンに膨らんだボストンバッグは、いつもの俺なら絶対に持ち歩かない代物だろう。
 
 なんとも答えようがないので、軽く肩をすくめて言った。
 
「まぁ、念のためにな」
 
 
 
 
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