とんでも腐敵☆パートナー
「ここに置くよ」
 
 横から響いたドサッという音に、俺は意識を掴まれ、はっと我に返った。
 
 拝島が、ビーチパラソルを砂に差し込んだところだった。
 
「あ、ああ……」
 
 まだ胸にくすぶる昏い欲望を押さえ込んで頷いた。
 
 頭を冷やすため、買ってきたばかりのスポーツ飲料のペットボトルを開けて、中身を口に含む。
 
 冷えた液体が体に浸透し、中の熱を奪っていった。
 
「……ところで、高地は何してるの?」
 
 不意に拝島が、俺の横に目線をずらして言った。
 
 俺は完全無視してたのだが、にわかにその存在を思い出し、拝島に続いてそちらを見やった。
 
 真っ赤な顔でひたすら妙な作業に没頭する高地がそこにいた。
 
「見ての通り、なにやら膨らまそうとしてるみたいだな」
 
 半ば呆れて言う。
 
 そう。高地は持参してきたらしいマットのような物に、息を吹き込むのに必死だったのだ。
 
「ぷはぁーっ! はぁ、はぁ。ゴム、ボート。だよ」
 
 見てると給気用の孔から口を離した高地が、苦しげに教えてくれた。
 
「普通、そういうの、ポンプとか使うもんじゃない?」
 
「だって、はぁ、はぁ。わすれ、ちまった」
 
「なら諦めればいいだろ。それ以上続けると酸欠と日射病で倒れるぞ」
 
「いやだ! ラブラブボート作戦なんだ!」
 
 急に元気になった高地が断固主張する。
 
 そのネーミングセンスも問題だが、真の問題は、誰がこのボートに、高地と二人で乗ってくれるか、だ。
 
 徒労に終わることは目に見えていた。
 
「……拝島。好きにさせてやろう」
 
 本音は「勝手にやってろ」だ。
 
 そこへ。
 
「おまたでーす!」
 
 元気のいいグリコの声が聞こえてきた。
 
「おおっ! 待ってましたーっ!」
 
 高地が空気入れを中断し、飛び上がる。
 
 俺と拝島も向き直って三人を迎えた。
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