とんでも腐敵☆パートナー
「えと、ですから、お気になさずデー……」
「キミ! ちょっといいかな!」
 
 俺は殊更に大きな声で女の言葉を遮った。
 
 頭の中でアラームがわんわんと鳴り響く。
 
 それから女の手を強引に引っ張り、ぽかんとした顔の拝島を残して離れた場所に連れ去ったのだった。
 
 なんてこった! こんな危険人物を野放しにしてるなぞ、日本の警察は何をやってるんだ!
 
 雑居ビルの中に入り、入り口奥のエレベーターの前まで女を引っ張り、そこで足を止めて振り返る。
 
「君、今、何を言おうとしたの?」
 
 いつもの、爽やかに見える予定の笑顔を浮かべて言うと、
 
「デート」
 
 女は少しの躊躇いもなく答えた。恥ずかしげに俯き、両手を頬に添えて言ってのけたのだ。
 
「そういう性質の悪い冗談は受け付けないんだよ、僕達は。悪いけど、用がないなら僕達の後をつけないでくれるかな」
 
 俺は多少どころでなくイラッとしたが、殴り飛ばしたい衝動を抑えつつ柔らかい物言いを崩さなかった。
 
「冗談のつもりはないんですけど……。だから私のことは気にせず、デートを続けてくださいな。私は勝手に観賞してますので」
 
「あのね、思いっきり気になるから言ってるんだよ。僕はまだいいけど、僕の友人までそんな目で見られるのは我慢ならない。あいつにその手の冗談を言われるのもだ」
 
 その途端、女が不気味に笑った。
 
「うふふふ……まだモノにしてないんですね」
 
 
 ぞわっっ
 
 
 な、今、この女、なんて…………。
 
 俺は言い知れない不安に襲われた。
 
「何を言ってるんだ、君は」
 
 平静を装いつつ素っ気無く突っ跳ねたが、女の目に帯びた怪しい光は消えなかった。
 
「あの人、ノンケですよね」
 
 ぞわぞわぞわっ
 
 なんなんだこの女は。
 
 なんでそんな目で俺を見るんだ。
 
 まるで何もかも見透かしてるかのように、俺の目の奥、普段隠してる俺の素顔を直接見つめてくる。
 
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