目を閉じてトリップ
名前、キケロ。職業、お菓子屋。
ぶっきらぼうに十代前半の見かけをした少年はハルカの質問に答えた。アムレはもうキケロのことを知っていたようで、テーブルを挟み向かい合わせで座る二人に紅茶を用意しながらくすくすと笑っていた。
「どうしてお菓子をくれるの?」
ハルカの質問が核心をつくとキケロの表情はいちだんと強張った。
「そんなのどうでもいいだろ。余ったからだよ」
ハルカの視線を避けるように顔を反らすキケロの頬にはわずかに赤みがさしていた。
「おいしかった。ありがと」
笑顔で礼を言うハルカにキケロはさらに真っ赤になった。
「別に……また持ってきてやってもいいし」
ぼそぼそと小さな声で答えるキケロの頭に手を置いてアムレは豪快に笑った。
「良かったねぇキケロ。これからはこそこそしないで会いに来れるじゃない」
「余計なこと言うなよ!」
頭を振ってアムレの手を避け、キケロは頬を膨らませた。
「ところでミッシュはどうしたんだい?」
「今は劇小屋に行ってるよ。あいつお気に入りが出るんだってさ」
ふて腐れた様子でキケロは答えた。
「あ、ミッシュはキケロと一緒にお菓子屋をしてるキケロの双子の姉だよ」
二人の話を黙ってきいていたハルカにアムレが教えた。
「ミッシュの話はどうでもいいだろ」
不機嫌そうにキケロは言い、席を立った。ハルカに背を向けて口を開く
「お前さあ」
「……わたし?」
「そう。あのさー、なんのお菓子が好きなんだよ」
ハルカからキケロの表情は伺えないが、見える耳は真っ赤だった。
「クッキー、かなぁ」
「……へー」
素っ気なさを装った態度で頷くと小さく「またな」と言ってキケロは家を出て行った。
アムレはそれを見送るとまた笑い出した。
「あの子あんたが来てすぐ窓んとこから作業してるあんたを見てたんだよ」
「気付かなかった……」
「仲良くしてやんなさい」
ハルカは大きく頷いた。