目を閉じてトリップ
3.日陰町劇小屋

 この町で働き始めて一週間が経った。アムレから渡されたのは金貨20枚。目標の一万枚をがいかに途方もない数字かわかり、ハルカは長期戦に取り組むことを覚悟した。そのためには息抜きが必要だと、キケロに案内されながら散歩に行くこともあった。

 ハルカに来客があったのはある日の午後だった。黒いハットを被ったイタチだった。

「ハルカちゃん久しぶりね、ほんと。暇ならさあ、遊びに行こうぜ」

 ハルカを見つけるなりにやにやとした笑いを顔に貼り付けてイタチは言った。

「どこにですか?」

「返事しないで場所だけ聞くってあざといねえ。まあいーけど。劇小屋だよ」

 劇小屋の話はキケロから聞いたことがあった。劇小屋では劇員が劇をはじめとし、歌や踊りも披露する場で、この町で唯一の娯楽施設らしい。

「でもわたしお金が……」

 指輪を作る時間がなくなるばかりではなく、入場料まで取られては堪らない。ハルカが呟くと、イタチはポケットからぐしゃぐしゃにした二枚の紙を見せてきた。

「この前利子がわりにチケットなんて貰っちゃってさー。二人ぶん、ね」

「いいんですか?」

「うん、いーよいーよ。日陰町名物劇小屋にいかなくてどうする」

「日陰町?」

「あれ、言ってなかったけな。ここは日陰町。城や貴族の陰で暮らす者たちの町さ」

 そう言ってイタチは意味ありげに笑った。
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