目を閉じてトリップ
1.知らない世界
ハルカは何度も瞬いて頭と視線を動かし頭を回転させ自分の居る場所と置かれた状況を理解しようとした。
西洋風な石畳の路地に懐かしい雰囲気の――ハルカは実際には目にしたことのない、鹿鳴館のような和洋折衷の建物が並ぶ景色。
「ここどこ……」
通り行く数人は日本人とは言いがたいもののどこの人とも特定出来ない髪色や目の色をしている。ハルカは黄緑色の髪をした人をつい凝視してしまった。彼が視線を返してきたので慌てて目を反らすと、少し遠くにいる違う人物と目が合った。
色素の薄そうな日本人、といった色を持つその人物は、ひどく整った容姿をした青年だった。切れ長だが大きな目や細い鼻や薄い唇が彼を繊細に見せた。
「どうしたの」
ハルカに近付きながら彼の話した言葉が理解出来て安心する。その優しく甘い声音にも。
「わたし、気がついたらここにいて……」
声に出すことで自分が置かれた不可解な状況をが身に染みて感じられ、涙が出そうになった。
「たまにいるんだ、そういう子」
迷子みたいな顔してたから君もだってわかったよ、と青年は微笑む。
「すごく親切な人のとこに連れてってあげるからついてきて」
ハルカに断る理由はなかった。