目を閉じてトリップ
青年はゆったりとした足どりでハルカのわずか前を進んだ。疑問を口にしたくとも何から尋ねてよいかわからず、ハルカは黙ってついて行った。
色とりどりの髪や目の人物とすれ違い、そのたびに目で追いたくなるのを自制する。そうしているうち、先程より寂れた町並みに差し掛かったところで青年は止まった。
「ここにいるイタチさんにきいてみて……あれ、留守かな」
引き戸が開き、机と椅子が置かれた室内が見える建物の前で止まり、彼は首を傾げる。
「イタチさーん」
青年が呼ぶも返事はなく、『あれぇ』と目を瞬き、彼はハルカに向き直った。
「もう少しで帰ってくると思うから座って待ってればいいよ」
「……はい」
ハルカは示された椅子の前に進んで小さく頷いた。
「わっ!」
突然青年は目を丸くして固まる。
「もうこんな時間だった!行かなきゃ、じゃあね」
青年の視線の先にある時計は午後3時をさしていた。黒に近い茶髪をなびかせ、彼は綺麗なフォームで走り去った。