目を閉じてトリップ


「アムレさん、このお菓子知らない?窓際に置いてあったんだけど」

「さあ、わたしが置いたんではないよ。でも、もらっていいんじゃない?ハルカへのプレゼントかもよ」

 アムレは悪戯っ子のような笑みを浮かべ、おいしそうだし、と付け足した。

「じゃあ二人で分けようよ」

「嬉しいね。今紅茶をいれるよ」

 昼食後すぐだというのに二人は甘い香りに負けてしまった。久しぶりのお菓子はハルカにとって魅力的過ぎた。

「クッキー、わたしもたまに作ってたなあ」

 ハルカは前の暮らしの話をしたことはなかった。食事中はアムレにこの町について質問することがほとんどで、身の上を話題にすることはなかったのだ。

「そうなの……今度作ってもらおうね」

 アムレは複雑そうに微笑んだ。気まずさを隠すようにハルカは紅茶を飲み干した。

「そういえば、なんであんなところにお菓子があったんだろう、食べて良かったのかな」

 紅茶のおかわりを注ぎながらハルカは呟いた。

「なあに、こんな可愛い袋に入ってるんだ。誰かから誰かへの贈り物だよ」

 そう言ってウインクするアムレにハルカはただ首を傾げるだけだった。
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