君へ

突然の永久くんの言葉。
私ちゃんと考えて首を振っているのに(涙が出過ぎて喋れないのも悪いけど)そんな風に捉えたの?
「キ、キライになんて…っ」
勢いつきすぎて声が詰まる。
「ぜ、絶対にならないよっ」
それでも一気に喋る。
その瞬間にっと固かった永久くんの表情があの明るい笑顔に変わる。
「じゃあなお、俺のものになって」
反則だよ。
そんな笑顔見たらやっぱり大好きだなぁって我が儘な思いが出てきちゃうよ。
ごめんなさい。

もう少しだけ。


「なお、母さん説得したんだ。法律上あの男にはなおの傍に近寄れないようにするから」
なおの遺産管理とか保護責任はしっかりうちの顧問弁護士に頼んで見るから。
高校卒業して18歳になったらそれもいらなくなるよ。
永久くんからの説明。
びっくりしてついていけない。


「だからなお、一緒に暮らそう」

もう少しだけ。
もう少しだけ甘えてもいいですか。
手を伸ばしてしまう。
「い……いの…?」
私の馬鹿。
永久くんの同情だと分かっていても。
彼の為にならないと分かっていても。

もう少しだけ。

ちゃんと、離れるから。

一人で生きていくから。

もう少しだけ。

甘えてもいいですか。
その手をもう一度とっても、いいですか。

「うん、なおを何もかもからさらいにきたんだ」
抱きしめられる。
温かい体。
私の背中に腕がまわってぎゅうっと抱きしめられる。
シャツが濡れちゃうんじゃないかと遠慮していたけど構わないというように腕にそっと力が加わったのでおずおずとシャツを握って抱きしめる。
頬を寄せるととても温かくて安心する。
永久くんだ。

夢じゃなく本物だ。
「なお、会いたかった」
うん。
会いたかった。
学校も帰り道も家でも、いつも寂しかった。
いつも喪失感と悲しみが私を襲った。
あの、最後の約束も破ったのは私なのにね。
勝手に被害者面してごめんね。
でも、でもどうしても伝えたい。
「わ、私も、会いたかった」
そっと見上げると永久くんの優しい目と会う。
「うん、ありがと」
もう一度ぎゅっとされる。
ぎゅっとされて夢じゃないと分かるけど夢のように幸せ。
大好き。
心の中で小さく呟いた。
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