君へ

上から知らない声が降る。
びっくりして肩を揺らす。
「春っ!」
永久くんが珍しく噛み付くようにソファーの後ろに立つ北河春斗さんの名前を呼ぶ。
「ごめんねぇ具合どうか心配でさぁ」
永久くんを無視して私に話し掛けられる。
「あ…あの、先程、はすみませんでした」
先程の人だと分かり、立ち上がって謝りたかったけど永久くんが腕を軽くひいて立ち上がらなくていいと目で伝えてきたので、なるべく丁寧に気持ちが伝わるように謝罪する。
あんな行動普通では有り得ない。
許してもらえるだろうか。
「あ、いいんだよ。それより俺こそ突然声かけてごめんね」
優しい言葉に驚く。
ぶんぶんと首を振って、私こそすみませんともう一度謝る。
「なおは謝らなくていいんだよ、コイツが悪いんだから」
「永久くんっ」
永久くんの誤解に思わず大きな声が出てしまう。
北河さんは苦笑していた。
「と、永久くん私が悪かったんだよ。勝手しちゃって…」
「いいんだよ、すぐ馴れるよ。後もう一人女の子がいるけどそのうち紹介するね」
彼女だろうか。
居て当たり前なのに、悲しくなる。
「姫はもう食べないの?」
フレンチトースト作ったんだけどとお皿が目の前に置かれる。
食べれない。
どうしようとつい永久くんを見てしまう。
「なお疲れたでしょ。そろそろ部屋で休もうか」
思わずこくりと頷く。
「あ、私、後で頂くので、すみません」
北河さんにも謝る。
「いいんだよぉ~また食べたくなったらいつでも言って。いつでも永久が作るからさぁ~」
「俺ら食べ盛りだからこれくらいすぐ食べちゃうよ。なおにはまたお昼作るから気にしなくていいよ」
交互に声をかけてもらって嬉しくて小さくありがとうございますとしか言えない。
「なお、戻ろう」
永久くんにまた手をひかれて部屋を出る時にまだ挨拶をしていなかった事を思い出す。
「相良透尚です。よろしくお願いします」
永久くんの背中に隠れるようにして挨拶する。
「北河春斗です。よろしくね姫」
姫?
首を傾げる。
私のこと?
「姫は姫だからいいんだよ。またね」
押し切られる形で部屋を出る。
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