君へ

21

「なおっ」
声も自由に出せない環境に彼女はずっといた。
夜は一番長く、恐ろしい時間だったのだろう。
助けを呼ぶ事すら、泣き声や悲鳴を上げる事すら許されなかった今まで。
「なお、大丈夫だよ」
「い、や…っ」
掠れた弱々しい抵抗。
この小さな体でどれ程の暴力に堪えてきたのだろう。
「許…して…ごめ、なさ…」
「大丈夫だよ」
毛布ごと掻き抱く。
びくりと毛布が痙攣する。
静かになった毛布をめくり顔を覗き込む。
充血して赤い瞳が見詰め返してくる。
触れると涙で濡れた頬が冷たい。
体が冷え切っている。
「なお、なお、なお」
聞こえるまで呼び続ける。
君と抜け出したいんだ。
君を怖がらせて泣かせてばかりのこの暗い暗い世界から。
「なお、なお、なおっ」
俺は此処に居る。
目を開ければ俺が居るよ。
「なお、大丈夫だよ」
冷たい頬に俺の頬を寄せる。
熱が少しでも伝わるように。
「なお、なお、なお」
腕の中の毛布越しの背中をゆっくりさする。
さすっていると腹部に違和感。
ぎゅっといつの間にかシャツの裾が握られていた。
毛布の中のなおは寝ているようだ。
泣き疲れたようで瞼も頬も赤く腫れたまま、年より幼く見えるあどけない顔だった。
呼吸が安定して眠りが深い事を確認すると、そのまま慎重に毛布事抱き上げベットに上がる。
横たえようとするがなおの握った指がそうさせない。
俺の胸に顔を押し付けて安心したように眠っている。
「しょうがないなぁ」
やばい。
言葉と裏腹に顔がにやけてしまう。
掴まれた指が信頼と安心を示していると実感できた。
毛布にしっかりと包むと自分もベットサイドに寄り掛かるように座るとその足の間にゆっくりと横たえた。
なおはその振動が怖かったのが俺の腹に頭を寄せむずがるように額を擦りつけた。
「ゆっくり寝ていいよ」
端に落ちていた掛け布団も上から掛けてやり安心出来るようにずっと頬を撫でていた。
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